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第39回 市民科学研究室(市民研)の上田さんに聞く【4】 ~広島・長崎の原子爆弾からみる福島の放射能の影響~

 先週に引き続き、NPO法人市民科学研究室、通称「市民研」の代表の上田 昌文さんに、IVUSA理事の伊藤が、株式会社ジェイクランプの代表取締役社長の佐々木 健二さんとともに、お話を伺います。

市民研の上田さん(右)とジェイクランプの佐々木さん(左)
市民研の上田さん(右)とジェイクランプの佐々木さん(左)

伊藤:
放射能というと、やはり人体に対する影響について考えなければならないと思います。過去には広島・長崎の原子爆弾による被ばく、それによる人体への影響というものがありました。今回の福島の原発事故による放射能は当時のものとどう違うのか、また同じような面はあるのかについてお話を伺いたいと思います。
上田:
広島・長崎は世界で初めて確認された大規模な放射線被害の実例です。そのため、事態が起こった直後から放射能の量やどれだけの人々が被ばくしたのか等詳細に調査され、継続的に行われています。
佐々木:
今も、ですか。
上田:
はい。実際に被ばくされた方を始め、二世と言われる方々の健康影響の調査が今もなお継続して行われています。そのデータはチェルノブイリや福島で起こることを考える上で非常に重要なものとなります。
 しかし「原爆」と「原発事故」では大きな違いもあります。「原爆」の場合、大勢の人々が亡くなられたわけですが、その主な原因は原爆投下直後に起こった熱線と爆風でした。
 もちろん黒い雨が降った後、土に放射能が残留しために被ばくした方も居ますが、そのために亡くなられたと思われる方はごくわずかです。「原爆」で亡くなられた大勢の方々は、原爆投下直後の強烈な熱線と爆風。そして爆発した瞬間に降り注いだ黒い雨といわれる強烈な放射能で亡くなられました。
 「原発事故」の場合、強烈な放射能という意味では原発が爆発した後に漏れた放射能が広がったということが挙げられますが、広島・長崎で起こったような強烈な放射は起こっていません。すなわち、セシウムが上から降ってきて、土に付着したものから微量な放射能が出ている、というのが福島の現状です。
 ですから、広島・長崎とは状況が全く違います。また広島では「あれだけ放射能が降ったのだから、もう草木は生えないし人も住めない」といわれていましたが、全く逆のことが起こりました。
佐々木:
そこですよね。
上田:
それは何故かといいますと、原爆はかなり上空で爆発しましたので、地上に降りてくる前にかなりの量が散ってしまっていたということが挙げられます。そして台風が到来したこととも関係があるのですが、風雨によってまたかなりの量が流されたのです。もちろん黒い雨は降りましたし、「入市被爆者」という原爆投下後に被災地に入った人々の被ばくも問題視されています。
 いずれにしても、福島と比べた場合、残っていた放射能による被ばくは広島ではそれほど割合的に多くはありません。そしてかなり早く放射能が現地から無くなっていったので今広島・長崎で測定器を持って行っても数値を示しません。これらのことから、広島・長崎と福島ではだいぶ状況が違います。
佐々木:
日本に原発は50数基あるわけですが、そういう意味で考えてみたら恐ろしいですよね。
上田:
実はウランの量でいいますと、原爆1個分と原発に日々溜まる使用済み核燃料が発する放射能の線量ははるかに使用済み核燃料の方が多いのです。チェルノブイリにしろ、福島にしろ、放出されてしまったものは溜まっている量の1割にも満ちません。もしも全量が放出されてしまったら手をつけられません。このような潜在的な危険を含んでいます。
伊藤:
これはやはりデリケートな問題なのでお伺いするのは憚れるのですが、実際どの程度被ばくすると健康被害が起こるのかどうかというのは科学的なデータは存在するのですか。
上田:
やはり広島・長崎のデータが基本となります。100ミリシーベルトですね。生涯を通して100ミリシーベルト以上被ばくしますと、白血病も含め様々な病気、主に癌の発症率が上がってくるのではないか、ということは見えてきています。
 それ以下だとどうなるのかといいますと、福島の避難基準が20ミリシーベルトということからも分かるように、かなり少ないレベルでの被ばくも起こります。その影響を全くないと断定するのは難しく、例え微弱でも放射能を浴びると生物学的な影響は出ます。その影響が深刻な病気に繋がるかどうか、というところは何ともいえません。チェルノブイリで一番問題視されたのは甲状腺の癌でした。この前福島では検査から7人疑いがあり、3人は発症しているという結果が出ています。
 しかし、それが本当に福島の原発由来の放射性要素を吸ってしまったがためのものであるかという原因の特定はまだはっきりしません。難しいところです。
伊藤:
そうなのですか。これからもう少し時間をかけて調査してみないと分からない、というのが現状ということですね。
上田:
そうですね。
伊藤:
分かりました。それでは4週目の今回は放射能の人体への影響についてお話を伺いました。ありがとうございました。

 来週で上田さんのインタビューは最後の回となります。市民は科学的知識をどのように活用していけばいいか、についてお話を伺いたいと思います。

担当

上田 歩(中央大学)

上田 歩(中央大学)